こんにちは、ばしです。
ビンテージ靴の楽しみといえば製造年代の判定。
ほかにも楽しみはあるわけですが、最近の本格靴にはない、ビンテージゆえの楽しみなわけです。様々な判定方法が確立されており、それを見て一喜一憂するわけですが、時に不正確であったり、不十分であったり、誤りもあったり。
先日拾ってきた英国ビン靴。ソックシートのデザインを手掛かりに製造年代を判定していたのですが、手持の靴が、これまで弄った靴が、永らく思って思っていた製造年ではなかったことが判明しました。
今回はそんなちょっぴり切ない話。
POULSEN SKONE
英国老舗シューメイカーのひとつであるポールセンスコーン。
写真の2足は私には小さくてすでに旅立たせたものですが(過去記事)、本日時点で我が家には3足のポールセンスコーンがあります。老舗ではあるものの厳密には、1972年年にニュー&リングウッド傘下となり現在に至るわけですが、その時々でソックシートのデザインが異なりそれを手掛かりに年代判定が可能らしい。
とのことだったのですが・・・。
まずは、この両者の歴史の振り返りと確認です。
長い歴史を誇る両者が一つになったのが約50年前。その後、日本でポールセンスコーンの名が広く知られるようになったのは1989年11月号の雑誌「BRUTUS」かと思います。
表紙を飾ったのはポールセンスコーン。
目を凝らしてよおく見ますと、
この靴のソックシートのロゴは「New & Lingwood」と「POULSEN SKONE」のダブルネームです。内側の文字も手書きではない。冒頭の写真の黒い方がこのタイプでした。
クロケット製の1足。小さくて転がしましたが、ロゴもはっきりと残っていてまずまずの品でした。
クロケット製のペアは2足持ってます。
手書き文字の1足。ニュー&リングウッドの名前のないこいつは1972年以前のロゴのペアです。半世紀前のペア、ということのようです。
もう1足。
内側には手書き文字のクロケット製なのですが、ソックシートのロゴは先ほどの2足とは異なります。どうやらこいつ、1990sのBEAMSさんによる別注品、とのことだそうです。
ポールセンスコーンのファクトリーと言えば、「クロケット&ジョーンズ」と「エドワードグリーン」が代表格なわけですが、「リーガル製のポールセンスコーン」なんてものもあるらしいです。ええっ、そんなのあるのね。
これは、1991年以降のことらしいです。新オーナーとなり経営方針も色々と変わる中で、ニュー&リングウッド名義の靴を株式会社リーガルコーポレーションに製造許可したり、なんてことがあったらしい。いやあ、これは知らなかったです。ですが、実際メルカリ等でもリーガル製造のN&Lの靴が出品されてました。
さて、
ここからが本題です。
先日、久しぶりにポールセンスコーンのペアを手に入れました。
今回は黒いサドルシューズ。
サイズは5.5Eと私には小さくて履けない。なのですが、安かったこともあり拾ってきたわけですが、履けないサイズをわざわざ持ち帰った理由がこちら。
32ラストのエドワードグリーン製です。
初・EG製のポールセンスコーン。クロケット製とどんなふうに違いがあるのか、弄って確かめてみようとゲットした次第です。で、ロゴには「N&L」はなし。1972年以前のペアです。その割にはかなりの美品だな。と思っていたものの・・・。
ソール中央の「Made in England」が筆記体です。
???
これでいいのか、ね?
おかしくね?
英国靴はそれほど詳しくはない私ですが、旧工場製のEGのペアのソールにあるこの文字には「筆記体」のものと「ブロック体」のモノがあって、後者の方が旧い、と聞いたような。もしこの個体が1960s頃なのであるならば、年代の順序から言ってブロック体でなければならない。なのに・・・。
この疑問をインスタで投げかけてみましたところ、なんと!
このペアは1980s末~1990s初頭のグリーン製のペアで、BEAMS(厳密にはBEAMS-F)さん別注の品であることが判明しました。当時、発注にあたり、ソックシートには本来の「N&L」の記載のない古いロゴを復活させたらしい。50年前のものと思っていたら30年前のものだったのでした・・・。
いや、まあね、1足目をゲットしたときには1960sにしては相当に程度が良いと思いながらも、2足目をゲットしたときには「さすがに良すぎる」と思わなくもなかったんですよね。1990sと知り、納得です。
いや、納得いかない面も。
なぜ、BEAMSはそのようにオーダーしたのであろう?
なぜ、N&Lサイドはそれをオーケーしたのであろう?
BEAMSさんに深い意図はなかったのかも。
また、N&L社も新オーナー体制に変わっていたのかも。
いや、そもそもそんなこと拘るようなことではない?
ただ、お蔭で30年後の今、ビン靴フリークが混乱を来しております。
当時のBEAMSさん別注のペアの製造は、メインがクロケット、一部モデルでグリーンと、両社どちらにも委託されていたようです。
1990年初めころと言えば、当時のBEAMS、というか、当時の日本はというと、バブル経済の最高潮であり、ジャパンマネーが最高に威力を発揮していた時代です。値段は高くとも品質の優れたものが売れた時代。そんな靴を求めてビームスはポールセンスコーンへ。
片や、クロケットは今のように自社名でのブランド確立はまだ十分でなく、ファクトリーとしての仕事がまだまだ圧倒的主流だった黒子の時代のように思えます。
その頃のグリーンはというと、1980sに経営危機を迎え、その後、ラルフローレンやブルックスブラザーズなど有名ブランドの靴のOEM生産を請け負うなどしてV字回復を果たしていた頃、でしょうか。
グリーン製についてつけ加えるなら、この数年後にはエルメスに自社株を売却する事態となり、当時の工場(所謂、EGの「旧工場」=「現ジョンロブの工場」)までも失ってしまうわけですので、その間隙を縫ったBEAMSさんは流石と言ってよいのでしょう。
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今回のソックシートのロゴ。
BEAMSさんが復活させたものであることは分かったのですが、だとするならばこのロゴのペアには二つの年代のものがある、ということになります。その判別方法って、何? 1960sはビスポークだけ、とか? その頃もファクトリーメイドのレディメイドがあったのなら、それぞれをどうやって見分けるのか?
また、同じBEAMSさん別注とされるUウイングのソックシートはまた別のデザインでした。このあたり、それぞれの年代の前後やロゴが異なる理由など、一体全体どうなっているのか、謎は残ったままです。
そんな風に様々な時代と謎が錯綜する(させてる、させられてる笑)英国靴なわけですが、そんなことよりも何よりも、今回は「旧EG製」であることが最も大きなトピックであり魅力なんだと思います。
こいつ、
実はこのあとの行き先はすでに決まっております。
しっかりメンテして旅立たせるわけですが、その前に、年代などの出自をはっきりさせておきたかった次第です。インスタにてもろもろご教示頂きました飯野氏をはじめとする皆様にはこの場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございました。
ま、いい靴ですし、1990sだとしても十分に古いペアではあります。弄ってみて、クロケット製との違いなど、感じたところを近々ご報告いたします。
(おしまい)