こんにちは、ばしです。
今日から7月。2022年下半期の始まりです。
月初の記事は「ゆく靴くる靴(記事一覧)」が多いのですが、今回は少し先延ばしです。まず、4・5・6月と3ヶ月分貯め込んでしまってます。で、その間もそれなりに買ったのですが、紹介どころかメンテすら手付かずなものも多数ありまして・・・。
特に、最近は「グリセリン保湿」をマストにしていることもあり、メンテナンスは2週にわたることがほとんどです。着手してから記事にするまで時間もかかかる。なもんで、売り買いの振り返りは手元のペアのメンテとご紹介が一通り終わってからにしよう。
で、そんな状況にも関わらず買いは絶好調。7月に届く1足はすでに数日前にぽちってしまいました。おお、これはまじで急がねば、と、いそいそとメンテに精を出す週末です。先週末も暑い中、1足完了させましたので、とりあえず今回はそいつをご紹介です。
こいつ。
1960’s LWB from USA
「とりあえず」なんて軽口叩いてみましたが、実は結構レアなペアかなあと。見た目は普通のLWB=Long Wing Blucher。お馴染み、外羽根のロングウイングです。
今年の自分への誕生日プレゼント(2足中の1足)ですので、少し目先の変わったやつにしてみました。嬉しいことに、箱付きでアメリカより届きました。
踵にはVcleat。
アッパーはシボ革。
いかにも米国ビン靴といった趣です。Wの両端が踵付近で巻き上がるスタイルのロングウイング。1960年代の米国靴でよくみられる意匠です。
サイズ表記は8D。マイサイズです。
ご覧の通り、ダメージはありませんが相当に古ぼけてます。とはいえ、クラックやダメージはなさそう。久々に手入れし甲斐のあるやつです。このペアどうレアなのか、は、本記事後半で種明かしするとして、まずはがっつりメンテです。
いつも通り、まずは左から。
ステインリムーバー
ワックスやクリーム等が厚く塗られた形跡はありません。
LEXOL
特にコバ周り、積年の汚れを掻き出す。
爪先の白いのが気になります。
レノマットリムーバー
強烈リムーバーを歯ブラシで優しく全体的に。
爪先の白いのは取れない。とりあえずこのままで。で、右も同じ手順を済ませたら、
グリセリン保湿
だいぶ乾いてそうなアッパーです。しなやか&艶やかになれば嬉しい。で、何より、履き口をしっかりと保湿です。せっかくの自分への誕生日プレゼントです。足入れ時に裂けたら目も当てられない。
ぱっと見には大丈夫そうに思えるのですが、油断は禁物です。
羽根部分もしっかりと。茶色のアッパーの場合、全体的にしっかりと覆いませんと仕上がりが色ムラになることがありますので注意です。右も同じ要領で。
履き口はかなり入念に覆ってます。
ライナーもどんどん色が濃くなっていきます。やはり、結構乾燥していたみたいでグングン吸い込んでいきます。
3時間後。
コットンパフ、まだ湿ってはいますが、随分水分が抜けました。
結構浸透したようです。
剥がしてみよう。
おお、がっつり吸い込みました。いい感じです。
内側、このままシミのようになりそうですが、まあ良い。シューツリーを入れて、翌週まで乾かしましょう。
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さて、その間に、一体こいつがどこの何者なのか。種明かしです。
左足のインソック中央。
ハウス型ユニオンスタンプ。
番号は擦れてよくわかりません。
ですが、
幸いなことに、右足にはくっきりはっきり残っておりました。
ファクトリーナンバー「777」。
おお!
777といえば!!
・・・どこだっけ?? ピンとはきませんでしたが、ソックシートには他の手掛かりがありました。
こいつ、何者かと言いますと・・・、
REGAL Carriage Collection
読めますでしょうか、中央上部の図柄のすぐ下の小さな文字。
こいつ、なんと! USメイドのリーガルのペアなのでした。
ebayでも「リーガルのペア」として出品されておりまして、箱にもちゃんとREGALの文字が。
おお!
長靴のイラストなかにREGALの文字があります。緑文字のREGALのフォントも日本製靴時代のものと同じような。ただ、箱から靴がはみ出してしまってます。ほんとにこのペアの箱なのかな。長靴の上の印字を見てみますと、
「1398G89」は品番?シリアルナンバー?
「WELLINGTON」モデル名でしょうか。
「Bro」は「Brown」でしょう。
「Cord」って何?
「Lg Wg」は「Long Wing」かと思われます。
長靴左の「RE」は何でしょう?「REGAL」の「RE」かと思ったけど恐らく違うな。「REJECT」の「RE」かも。で、先程の「Cord」。靴に関連する単語で「Cord」といえば「Cordovan」しか思い浮かびませんが、こいつはコードバンではない。
箱も靴も、サイズ表記はどちらも8Dではありますが、ひょっとしたら別のペアの箱なのかな。もしくは、これらのスミ文字は後から印字されたようですので、印字ミスもしくは箱の入れ間違い、といった可能性もありそうです。まあ、どちらでもいいや。どっちにしても、箱付きはやはり嬉しいです。
で、
「Carriage Collection」。
初めて聞くライン名です。検索してみたら一件だけヒットしました。擦れる前の元のロゴはこんなだったようです。
「The Ism Book」さんというブログの2012年の記事よりスクショ拝借しました。文字の上部のイラストが「Carriage」。馬が引いた四輪の貨車のことだそう。
おお、おんなじロゴです。ちなみに、上のデッドの中敷きの写真のペアは茶色のコードバンのLWBなんですよね。私のはどうみてもコードバンではないですが。ま、先ほどの「Cord」ですが、コードバンのモデルも存在したということは間違いないみたいです。
ただ、「The Ism Book」さんの記事ではファクトリーナンバー「777」については触れられておらず。うーん、間違いなく「REGAL=777」なのでしょうか。確認したい。そんなときは我が敬愛する辞書的存在のSUPER8SHOESさんです。
で、ちゃんとありました。S8Sさん扱いのREGALの靴(USA製)に「777」の写真がありました(こちらのペア)。よし、米国REGALはやはり「777」で間違いないようです。
さて、今や日本を代表するリーガルですが、ご存知の通りルーツはアメリカです。
【REGALの歴史】
1880年 マサチューセッツ州に「L.C.Bliss & Co.」創業
1893年 ボストンにシューズショップをオープン
1913年 社名を「Regal Shoe Company」に変更
1953年 米国「Brown Shoe Company(現CALERES)」が買収
1961年 日本製靴がBrown社と技術導入契約を締結
1990年 日本製靴が【REGAL】の商標権を取得
同 年 「株式会社リーガルコーポレーション」に社名変更
今回のペアは1960s頃のものと思われます。とすれば、日米両国でリーガルのペアが作られていた頃の米国製の品、ということかと思います。「アメリカ製のリーガルのペア」、というだけでもレアではないかなと。で、日米両方のリーガルのぺアを持ってる私も結構レアな奴かも、笑。
ところで、記事タイトルですが、いつもなら「中古のリーガルその23」とするところなんですが、ネタバレしてしまうので今回はやめときました。
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さて、
そうこうしてるうちに1週間経ちました。
メンテの続きです。
すっかり乾きました。
ライナーには保湿の跡が。こんなになったの、初めてでしょうか。あまり記憶にないな。まあいいや。履けば見えんし。
さて、順次進めましょう。いつもの手順で、まずは左から。
リッチデリケートクリーム
結構吸い込みます。
照りが出てきました。
リッチモイスチャー
見た目の変化はどうでしょう?
先ほどと変わらず。
TAPIR レダーオイル
今度はどうでしょう?
あまり変わらず。
さて、仕上げです。
コロニル1909(ブラウン)
いつもはニュートラル(ムショク)ですが、たまには色入れてみよう。
少し落ち着いたかな、そんな印象です。
まあ、それなりに改善したような。ただ、コバ周りにもう少し締まりが欲しいです。
コバにパレードグロス(茶)
たまにはいいかなと。
あ、駄目ですね。あまり変化なし。後でコバインキ入れましょう。
右も同じ手順でし上げてメンテ完了です。
ドーン。
おお、艶やかになったような。ビフォーアフターで確認です。
【BEFORE】
【AFTER】
おお~、良い感じです。やはりコバ周りって大切だと思う次第です。
【BEFORE】
【AFTER】
お尻回りもぬかりなし。
【BEFORE】
【AFTER】
ソールもしっかりメンテしました。
【BEFORE】
【AFTER】
靴紐、平紐の新品に交換しました。色々と好みはあるでしょうが、茶のペアには黒でなく茶の紐、が好みです。
武骨な印象の米国ロングウイングですが、このペア、とても丁寧に作りこまれているとの印象です。で、何より、いい面構えです。見た目は、ケンムールにも似てるかな。比べてみました。
お、似てますね。メダリオンのデザインもほぼ同じです。ただ、よおく見てみると、ところどころ微妙に違う。
ちなみに、
左:今回のREGAL Carriage Collection
右:Florsheim Royal Imperial のKenmoor
右のKenmoorの方がコバが張り出してます。なのですが、細長くスッキリと見えます。Regalはなんというか、ごつくて圧倒的な存在感です。
サイズはどちらも同じUS8Dですが、REGALの方がほんの少し幅広でしょうか。ただ、素足でですが、足を入れた感じでは「幅広」というような印象はありません。全体的に丸っこいというか、立体的というか。
REGALのほうが土踏まずあたりの突き上げ感が強くあって、足全体を包み込むようなフィット感もREGALのほうが強い。見た目もよろしいのですが、履き心地も結構良さそうです。
さて、折角なんで、日本製靴時代の旧旧ロゴリーガルとも比較してみよう。以前持っていた布タグのリーガル、残念ながら転がしてしまって手元にはありませんので、写真で比較です。
布タグ REGAL IMPERIAL 2235
REGAL Carriage Collection(再掲)
革質は明らかに異なる。何より、分厚い。まあ、これはリーガルさん云々というよりは、1960sビンテージクオリティが素晴らしい、ということかと思います。
形はといいますと、まあ、似てると言えばそう言えなくもないですが、そんなこといったらアメリカンなロングウインはどれも似とる笑。「W」の形はほぼ同じ、ですが、トゥのメダリオンは異なる。タンの端は日本製はギザギザ。コバの張り出しは同じくらい。似てますが、日本製の方がしゅっとしてて上品な感じ、でしょうか。
まあ、似てようが違っていようが、どっちでも良かったりしますが、まあ、一応比べてみました。
さて、履き心地はと言いますと、
昨日、早速履き下ろして丸一日履いてみたのでした。
大きいというほどではないのですが、履き口がやや高く、くるぶしの外側があたって痛い。なもんで、百均の薄手の中敷きでサイズ調整しました。少しだけ底上げしましたところ、とてもいい塩梅となりました。
角度を変えて。
うん、大変よろしいかと。
とても50年も前のペアとは思えません。分厚いアッパーにダブルソールゆえ「塊(かたまり)感」が凄いですが、ジャストサイズなこともあり、とても心地よい。重量もそれなりにあるかと思いますが、重さもそれほどには感じません。
ただ、
少しばかりなのですが、におうんですよね(笑)。
まあね、変なニオイではないし、カビ臭さとも違う。なんというか、旧い革とほこりっぽいようなニオイ。で、仕事中に職場のデスクの足元から革のニオイが立ち上がって来るのが感じられる程度の強さです。そう、つまり結構強い。
私自身は革の匂いは嫌いではない、むしろ好きな方なのでそんな気にならないのですが、嫌いという人もいそうですね。何より、私自身が臭いやつと思われるのも心外です。しばらく風通し良くして放置しておけば薄れるのでしょうか。けどまあ、いつまでもそんな待てないし。
よし、手当しよう。なんか施術してみましょう。「ニオイへの対処」は初めて扱う内容ですね。いろいろ試してみて、効果が出たらまたご報告します。なんかいい方法ご存じでしたらご教示ください。
ああ、次から次へと、なんやかんやと忙しい。
(おしまい)
ばしさん
暑いですね。Carriage Collectionというのが、あるんですね。いかにもタフそうなペア、これはグリセリンが効くタイプですよね! 繊細なフローシャイムもいいですけど、僕はワイルドなこのペアも好きです。僕も探してみます。
日本製靴が、最初にregalを作るとき、かなり細かく指示したと聞いたことがあります。この立体感は、日米とも素晴らしいですよね。今回も楽しませていただきました
しんのすけさん
ありがとうございます。で、ほんと暑いですね。外でのメンテ作業が躊躇われる暑さです笑。
今回のこのペア、半信半疑で買ってみたのですが、筋素性のはっきりしたやつでラッキーでした。
かなりごっついですが、私もこういうの好きです。ちなみに、ブログ記事では触れてませんが、
このCarriage Collectionのペア、S8Sでも扱いありました。もう、流石です。
ほかでも見つけたらお知らせしますね。
しかしすごい復活ぶりですね。アフターの革質が素晴らしい(写真だけでの感想ですけど)。やはり60年代までの米国の工業製品の品質はすごいということでしょうか(もちろんばしさんの手入れも)。
米国Brown社のRegalが買えるようになるなんてつくづく良い時代になったと思います(こういった点ではということですけど)。当然Regalの歴史は知っていますからBrown Regalその存在自体は知っていましたけど、いわば伝説(幻)としてです。
BadDogさん
ありがとうございます。ほんとすごい復活ぶりでした。
ビン靴は一定の手順を踏めば誰がやっても同じように蘇る、
というところがいいですよね。
やはり1960sまでのペアだからこそ、なのかなと思います。
これを体験すると、もう、やめられない(笑)