こんにちは、ばしです。
「2000円でお釣りのものしか買わん」
との縛りを設けていた先月2月。リユースショップでお安いヤツばかり拾ってました(参考:ゆく靴くる靴(2022年2月))。ま、それはそれでかなり楽しかった。なのですが、そんなのばっかりじゃあ、ねぇ。我慢ばかりだと精神衛生上も良くない。よし、今月は少し良いヤツを買おう。そんな風に思っていた3月初め(厳密には2月末)のことです。
嗚呼、予定が脆くも、バラバラと音を立てて崩れていく・・・。
「3月の1足目はこいつ」
と決めていたメルカリの英国ビンテージ。なんと!満を持しての購入寸前にかっ攫われてゆきました涙。まあね、そんなこともあります。でもあら不思議。あんなに恋焦がれていたペアな筈なのに心理的ダメージはほぼゼロ。私とは縁がなかったのでしょう、きっと。去るモノは追わず。
「よし、ならばその前から気になっていたメルカリの米国靴をゲットだ(ぽちっ)」
うぇ~い、やったりました!のはずが、セラーから「(確認したら)思ってた以上に状態が悪い、申し訳ないのでキャンセルさせて欲しい」とのこと。あら、そうなのね。まあ、そんなこともありますよね。ご親切傷み入ります。感謝感激です。真っ当なセラーさんで良かったわ・・・。
いや、良くない。
月初早々から、想っていた2足から袖にされてしまったのでした。オーマイガ。3月2週目の記事ネタの予定だったのに・・・。なのですが、きっとこれは何か理由があるはず。
私の身に起こる出来事には、全て何か必然の理由があるはずです。ひょっとして今回は「今月3月もリユースショップを主戦場にせよ」との神様の思し召しなのかもしれない。嗚呼、神様、ありがとうございます。
でもって、すんません。
実は先ほどの1足目と2足目の間に、湾の方で1足ポチってしまっておりまして・・・。まあね、安かったし、そんなこともありますよね。今、太平洋上にあるそいつは別腹扱いとさせて頂き、後はお導きの通り、馴染みの店で安いのを漁ります。などと宣っておりましたところ、見事に遭遇したのでした。
ゲットして参りました。
こいつ。
TOKIO KUMAGAI トキオクマガイ
若い人は知らないかも。かく言う私も、それほど詳しくは知りませんでした。靴のディテールの前に、予備知識をインプット。
調べてみましたところ、こんな方、こんなブランドだったそうです。
熊谷登喜夫(1947-1987)
1947年 宮城県仙台市生まれ
1968年 文化服装学院在学中に「装苑賞」を受賞
1970年 渡仏・フリーランスのデザイナーとして活動
1980年 パリに「TOKIO KUMAGAI ABC DESIGN PARIS」を設立
1981年 ヴィクトワール広場にブティックをオープン
1982年 サントノーレ通りに2店舗目をオープン
1983年 東京にトキオ・クマガイ・インターナショナルを設立
同 年 「TOKIO KUMAGAÏ」(レディスライン)を発表
1985年 「TOKIO KUMAGAÏ homme」(メンズライン)を発表
1987年 毎日ファッション大賞受賞
同10月 エイズにより死去
亡くなられた1987年、私はまだ高校三年生。ブランドはその数年後には消滅したようです。大学生だった頃に見聞きはしたことはありましたが、お世話になったことはないブランドでした。まあ、二十歳前後の若者には手の届かない敷居も価格も高いデザイナーズブランド、であったと記憶しています。
ちなみに、「装苑賞」というのは若手デザイナーの登竜門で、コシノジュンコ、高田賢三、山本寛斎、山本耀司など数多くの著名デザイナーを輩出しているのだそう。
パリ時代の熊谷氏は主に女性向けのブランドとして成功をおさめたそうですが、そもそもは「靴のデザイナー」として人気を博していたそうです。かのダイアナ妃やステファニー・ド・モナコら王室女性らも顧客としてその名を連ねていたらしい。
もし40歳という若さでこの世を去っていなければ、今頃は川久保玲や山本耀司などと肩を並べていたであろうともいわれている早逝の日本人デザイナー。タイムリーなことに、ちょうど今、京都で熊谷登喜夫展が開催されているようです。
(「熊谷登喜夫:軽やかに時を超えた靴デザイナー/Tokio Kumagaï: Shoe Designer with a Timeless and Playful Style」)
うーん、あたらめて、凄い方だったんですね。いつものノリで「バブルの頃のデザイナーズブランドの靴」なんて呼ぶのが憚られそうな気もしますが、例のごとく単なる中古靴として、リユースショップの雑多な靴コーナーの最下段に押し込まれるように鎮座しておりました。
実は、前回記事のGold Shoesをメンテし終えた際に「嗚呼、神様、次は黒がいいな」とお願いしておりましてね。まさにその直後の出会いでしたもので、あまりに直ぐ過ぎて、もうびっくりです。で、値札をみてまたびっくり。なんと、衝撃の税込330円笑。
で、何より、びっくりなのはこの意匠。
うんっ? えっ!?
おっ、おーっ!! と、なります。なりました。なりますよね。この記事を書いている今の私はだいぶ見慣れてきているはずなのですが、それでもこの顔、ほんと衝撃的です。
これが「アバンギャルド」というやつですかね。人生で初めて使いました。「アバンギャルド」。たぶん、使い方、間違ってないはず。いやあ、ほんと、もう、これ、凄いです。
そんなアバンギャルドに、不思議なことになぜだかとても「和」を感じてしまう。私だけ、なのかな。
どのように、かといいますと、
①お城っぽい
大阪城のシルエット。他のお城も似たようなもんでしょう。
②歌舞伎っぽい
この、髪型みたいなやつ、ゴム紐みたい。蟲みたいでもあります。
③戦国武将の兜っぽい
いや、これが本命でしょうか。
熊谷氏の出身である仙台ゆかりの伊達政宗。その三日月の前立ての兜は、まさにそのものって感じがします。って、どれも勝手な想像なんですけどね。
ですが、そんな風に「和」を感じてしまう。
パリでブレイクした熊谷登喜夫。そんな日本人のデザインによる、イタリア製の靴から、結果的に日本を感じる。はは、なんかおもろいですね。素敵です。
ようこそ、我が家へ。
ウエルカム・トキオクマガイ。
まずは、儀式です。
ステインリムーバー
黒のワックスやクリームは塗り込まれていない模様。
LEXOL
コバ周りを中心に。
うん、こうでなくては。
デリケートクリームもどき
特段変化なし。
乾きもなしでした。
リッチモイスチャー
もちもちになるやつ。
変化なし。むしろ艶感なくなりました。
TAPIRレダーオイル
油分補給&保革。
見た目に変化はなし。
コロニル1909ニュートラル
いつもどおり、仕上げはこいつで。
ま、潤ったっぽい。
最後にソールも。
ソールトニックほか、入れました。
おー、いい感じ。
右も同様に仕上げて、ビフォーアフター。
【BEFORE】
【AFTER】
ま、元の状態、そんな悪くなかったし、こんな感じで。
【BEFORE】
【AFTER】
上質さは隠せない。
ディテール見てみましょう。
まずは、このペアの最も特徴的な個所から。
いやあ、ほんと、その発想にしびれます。で、はは、引きで眺めるとやっぱり虫っぽいな。
内側に履き皺が。使用感が感じられる唯一の箇所です。
爪先。
革質、肌理が細かいです。ソールの削れも僅か。
モカ縫い。細かく正確なステッチワーク。
美しい。
踵周り。
うん、なかなか素敵なお尻です。
繊細でありながら、適度にグラマラス。
サイドビュー。
厚めのシングルソール。かなりかっちりしっかりした造作です。で、繰り返しになりますがアッパーの革質、ほんと素晴らしい。肌理が細かい。で、傷やダメージは皆無です。
アッパーもソールも真っ黒。なんていうか、モードっぽい。時代を感じます。
内側。
白いステッチが。マッケイ?
いや、コバには出し縫いが。ブレイクラピッド?
ですが、ソールには出し縫い糸がありません。ブレイクラピッドのヒドゥン?ソールの縁から2ミリほどの箇所に切れ込みが走っています。縦ドブ、なのでしょうか?
(参考:縦ドブのペア「Laszlo Budapest」)
奇抜なデザインが目を惹きますが、どうしてどうして、造りもとっても上質なペアです。また、ブレイクラピッド製法とのこともあり、イタリア製にしてはかなりかっちとした造作との印象です。1980年代後半=バブル真っ只中の頃の作です。モノが良ければ高くても売れた時代。「コスト意識」なんてあまり必要なかったのかもね。
この時代、確かALDENのVチップコードバンが69,800円だったかと。税別でも税込みでもなく、消費税が導入される前の時代です。こいつ、店頭では一体いくらの値札をつけられていたのでしょう?
いい値したんでしょうね。いいね。
さて、問題は、履けるかどうか、です。
EU40サイズ。素足でなら履けるか?足入れてみました。
うーん・・・。
履けなくはないが、履いてはいけないやつ、のようです泣。
こいつは、甲の低めの25-25.5サイズの人が履いてこそそのスタイルが引き立ちそうです。履く人選ぶ、そんなデザイン、そんなペア。はは、選ばれなかった。
あらためて、全景。
ああ、凄いです。
もうね、強烈です、唯一無二です。
そんなやつ、大好きです。
なもんで、く、悔しい。
もうワンサイズでかけりゃね。
さて、こいつ、どうしよう。
靴は履いてなんぼ。いつもなら、サイズ合う人の元へ、となるのですが、この強烈な個性のペアは、いつもと違って安易に転がすことが躊躇われます。今しばらくは手元に留め、早逝の才の手によるこいつを愛でていたい。そんな気分になります。
そんなペアが1足くらいあっても、まあ、罰は当たらんでしょう。
ともあれ、
嗚呼、神様、素敵なペアを有難うございました。
嗚呼、神様、次はね、ええっとね・・・。
なんと罰当たりな。
(おしまい)