こんにちは、ばしです。
すっかり春めいてきました。
まだ2月なのにね。冬物のお世話になるのもあと少しです。ブーツにマフラー、コートにウールのネクタイ、どれもしっかりと出番を作ってやらねばなりません。で、あと1ヶ月もすれば衣替え。いやそれは早過ぎ、言い過ぎでしょうか。ですが、「衣替えの準備」であればその頃からでも早過ぎはしない。
3月も後半にもなればすっかり春です。
となると夏もすぐにやって来る。昨年暮れに夏向けのペアを1足拾ってきました。夏場の週末の足元は「素足にローファー」なことが多いわけですが、いつもそれだと芸がない。今年はこいつもローテーションに加えよう。てなことで、だいぶ気が早いのですが、晴天のもとメンテいたしましたのでご紹介。
こいつ。
MATRIX
久々に「がち」なビン靴をセカストで拾ってきました。
どの程度旧いものなのか。日本製か米国製かはたまたイタリア製か。このスタイルで見慣れないロゴだったりすると、どこの何者かなんてさっぱり分からんでしょうね。加えて、冬場に夏向けのスタイルということもあり、税別3900円でゲットしました。サンキュー。
そんな【MATRIXマトリクス】。旧いアメリカ製です。前々から1足欲しいと思ってたのですが、国内では見かけることはほぼ皆無、本場ebayでも過去に数度見かけただけでその後は皆無です。そんなやつにセカストで出会えるなんて、一体どんな経緯で店頭に並んだのでしょうね。
初登場ですのでブランド略歴ご紹介。
MATRIX
旧い雑誌の広告を見つけました。
左上に「October 1943」とあります。40年前の広告の画像DATAをどこぞから拝借してきました。カラーの右半分がマトリクスの広告で、イラストの上、3列に並ぶ小さな文字列は取り扱い店のリストのようです。かなりな数があります。当時は相当に流通していた模様。
キャップトゥのイラストの下、
THE HOUSE OF HEYWOOD Worcester,Mass
とあります。MATRIXは1864年創業のHeywood Boot &Shoe Co.の持つブランドだったそうです。マサチューセッツ州ウースターには当時の社屋が今も残っているようですが、会社自体は残念ながら1953年にクローズしたらしい。
マサチューセッツ州発祥の靴メイカーってたくさんありますね。そういえば、以前アメリカとカナダのシューメイカーの創業年を一覧にしたことがあったな(「カナダ靴の世界」)。確認してみましょう。
「Brocktonブロックトン」発祥のFootjoyとStacyAdamsの間に位置しますね。ブロックトンという街は靴産業が盛んだったようですが、ウースターはそのブロックトンから今の時代でクルマで1時間ほどのようです。まあ、近所ですね。そんなマサチューセッツ州の中でも旧いシューメイカーのMATRIXですが、そもそも「1864年創業」って米国靴メイカー全体の中でもかなり旧いです。
州は関係なしのリストです。「1864年」といいますと、表の上から4番目です。全体の中で4番目というと、そりゃもうかなりの古参です。かのフローシャイムよりも30年も早い創業です。当時はきっと名門だったのかもしれない。
で、そんなペアということは、
こいつは1953年以前のペア、ということになる。
1950s?40s?それ以前? まあ、いつのでもよいのですが、1950sとしても70年以上も前の靴です。よくもまあ、こんなキレイに残ってましたね。
状態は、といいますと、
見ての通りロゴははっきりくっきり残ってます。腰裏もダメージはなし。
サイズは9.5C。旧いものですので、サイズ表記より少し小さめのような印象です。「S228045」「T417」とあります。なんの意味でしょう?「S228045」の文字列を逆さ読みして「(19)54年08月22日」なんてのはどうでしょう?
だとして「S」は何?
「Saturday」もしくは「Sunday」の「S」か? 調べてみたところ、1954年8月22日は「日曜日=Sunday」でした。おおっ!ビンゴか!? いや、日曜なわけないでしょう。勝手に休日出勤させるなってね。いや、それ以前に、会社は1953年にクローズとなってます。1954年なわけがない。いやあ、いい線行ったかと思ったけど、全然でしたね。
さて、少し脱線してしまいました。
靴の状態です。
シングルのソールは使用感ありますがへたりはありません。旧いペアはソールの作りがとてもしっかりしてますよね。今と何が違うのだろう。
トップリフト。丸い円の中に「MATRIX」の文字が。幸いなことにオリジナルなようです。減り具合からして、あまり履きこまれてはいないのかも。
確かに、旧いこの手の靴はメッシュ部分に綻びがあるものをよく見かけますが、これは大変状態がよさそうです。
革質も大変よさそう。
手入れしたら蘇るやつっぽい。
なのですが、
左履き口にキレが。
これは蘇らないな。全体的なコンディションから推察しますに、このダメージは使用されていた当時にできたモノではなく、年月が経過し「ビンテージ靴の仲間入り」をして以降にできたモノである可能性が高いように思えます。
乾燥した状態のところに誰かが足を入れられちゃったんでしょうね、きっと。根拠はないのですが、旧い靴の踵のダメージはそんな経緯のものが少なくないのではないかな。今回のも手当は必要ですが、まあ、程度は比較的軽微で良かった。
よし、そんなことで爺さんよ、
オッサンがメンテしてやろう。
いつも通りまずは左足からね。
ステインリムーバー
薄汚れてましたがワックス等はなし。
キズやクラックもなし。ラッキー。
LEXOL
メッシュ部分もやります。
裏も同じ仕様です。1枚もののようです。
歯ブラシでがっつりごしごしやっちゃいました。
おお。
すっきりしました。
デリケートクリームもどき
メッシュ部以外にたっぷりと。
なんかいい感じっぽいです。
リッチモイスチャー
もちもちになるやつ投入。
おお、良い感じです!
分かりづらいですね。
角度を変えて。
もうね、これで十分なくらいな艶感です。
旧いビン靴のアッパーって、ほんとに素晴らしく蘇ります。今と当時とで具体的に何がどのように異なるのでしょうね。
TAPIR レダーオイル
油分補給&保革。
肌理が整ってきました。
レザーソールリキッドほか
ソールにアンメルツヨコヨコみたいな形状のリキッドをたっぷりと。その上からトラディショナルワックスを塗りこんでしっかりとブラッシング。
芸能人は歯が命。革靴はコバ周りが命ではないかな。
コバに濃茶のインク、出し縫い部分にも歯ブラシで焦げ茶のクリームを塗り込みました。
さて、仕上げです。
コロニル1909
メッシュ部分の面積が大きいのでわかりづらいですが、
トゥは良い艶感です。
素晴らしいです。
右足も同じ手順で仕上げてメンテ完了です。
【BEFORE】
【AFTER】
おお、良い感じ。
【BEFORE】
【AFTER】
メッシュの下にシューツリーがうっすら覗いてます。
艶やかなトゥ周りとのコントラストが嬉しい。
【BEFORE】
【AFTER】
細かく正確なステッチ。
お尻周り。グラマラス過ぎない、少し華奢な感じです。
まあ、少し乾燥気味だっただけで痛みはそれほどありませんでしたから、これが本来の姿なのでしょう。
この手の異素材のコンビというのも、ビン靴特有の意匠ですね。メッシュ周りがノーダメージだったのは縫製などがしっかりとしていたお陰でもあるのではないかな。大変丁寧な造りに思えます。ずっと見ていても飽きません。
再度、全景。
なかなかにきれいに蘇りました。
ポテンシャルと状態が良い古靴はメンテナンスしてて楽しいでね。メッシュ靴をゲットしたのは今回が初めてでしたので、メンテ作業で不具合が起きぬかと心配してましたが、何もなくてラッキーでした。
あとはサイズ確認のための足入れ。ですが、それはまだ少し先、履き口のダメージをリペアしてからにします。プロに任せるか、DIYでやってみるか、思案中です。まあ、初夏までまだ少し時間がありますので慌てず行きましょう。
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てなことで、
12月に拾ってきたペア6足のメンテはこれにて無事終了。次回更新よりようやく2024年分です。今年の1足目、日曜に合わせてメンテしました。予告を兼ねてご紹介。
左のやつ。
小さいです。レディスです。買い控えの2024年ですが、「娘にどうだろう」と懲りずにまたも拾って来てしまったのでした。大体いつも、勝手に拾って来てプレゼントして「要らない」と言われ最終的に転がすわけですが、今回の首尾や如何に。
乞うご期待。
(おしまい)